全日本選手権で、羽生結弦選手が圧倒的な成績で優勝しました。4位以下と力の差が際立ったトップ3の中でも次元のちがう得点を出した演技は、言葉にできないような完成度でした。

フリープログラムではまた新たな風景を見せてくれました。静謐な佇まいから始まった演技は、場内に澄み切った緊張感を醸し出しました。一つ一つの動きは、本当に丁寧であり、自身の世界を大切に築き上げていくように感じられました。「見ていただいた方の背景に訴えかけたい」という哲学的なメッセージは、私たち一人一人が今置かれている状況に勇気を与えてくれるだけなく、あるべき生き方を示す言葉として受けとめました。

今の日本社会は、相互扶助の具体的活動や思いやりの心を持ち続けていくことが非常に難しくなっています。コロナ禍の不安定な毎日は、一層人々のコミュニケーションに影を落としており、小さなことでの諍いも日に日に増加しているように思います。そうした背景を持っている私たちに、どう生きていくべきかを真剣に考えていかなければならないということを演技で明確に示してくれました。羽生選手、本当にありがとう。

 

震災からまもなく10年を迎えようとしています。誰かのことを思いやる心を、私たちは何よりも大切に持ち続けていかなければなりません。

 

令和2年12月29日

 

東日本大震災雇用・教育・健康支援機構

理事長 田中 潤