羽生結弦選手による、スケーターとしては史上初の東京ドーム公演「ギフト」を鑑賞しました。会場は超満員、整然とドラマの幕開けを待つ姿は、さすがに道徳意識の高い結弦ファンです。大歓声の中で登場した羽生選手が、過去の大会での思い出の衣装に次々と着替えてスケーティングをしていきます。演目の合間は、大きなスクリーンに羽生選手の過去の姿が、技術の粋を凝らした映像で浮かび上がります。そして、羽生選手本人の録音声が自分の歩いてきた道、心の葛藤を赤裸々に語っていきます。私たちにその思いをぶつけ、問いかけてきます。哲学的な構成と、合間にスケーティングする羽生選手の姿に、不思議な心持でした。スケートリンク上には、整氷時間の際のスタッフを除いて、羽生選手がただ一人最後まで君臨し続けました。

 エンディングの晴明の舞いを終えると、会場内は最高潮。と思う間もなく、実はここからが見せ場でした。羽生選手がその日初めてマイクを持ち、今の心境と会場の皆さんへの感謝を述べ、ギフトの意味を明かします。

 ギフトとは、羽生選手から私たちへではなく、彼が皆からもらったものそのものであったというのです。そして、羽生選手が涙を拭って、唐突に滑り出しました。その速さは今までで最高とも思える凄いものでした。羽生選手が心を全力で開いた瞬間と感じる最高の感動のシーンでした。

 最後に、皆を一瞬ソフトに制した後、マイクを外し、肉声で「どうもありがとうございました。」と声を振り絞って、深々とお辞儀をして感謝を述べた羽生選手、羽生選手から演奏者、スタッフ、会場にいたすべての人々がギフトをもらったのではないのかというのが、結論としての思いです。

 

令和5年2月26日

 

東日本大震災雇用・教育・健康支援機構

理事長 田中 潤