とうとう羽生選手がソチオリンピックで金メダルを獲得してしまいました。19才の若者の強靭な精神力には言葉もありません。

ところが、もっと驚いたのは優勝後のインタビューでした。それは震災復興に対しての自身の立ち位置について述べた時のことでした。「自分一人が頑張っても復興に直接手助けになるわけではない。何も出来ていない、無力感を感じる…そして、金メダリストになれたからこそ出来ることがあると思う。そのスタートラインに立った」という述懐です。

通常、誰もが「メダルを取ったことで、被災された方々に勇気を与えることが出来たならば嬉しい」と言い切る場面で、彼はいよいよこれからがその役割を果たす時であると言っているのです。ここにこそ彼の震災の復興状況に対する冷静な視線とそれに向き合うひたむきな覚悟を見ることが出来ます。

「組織が縦割りである、予算がない、人がいない」等々政治家や知識人が安易に用いる復興が進んでいないことに対する概念の羅列とは全く違う次元で、具体的に自分の思いを言い切る形で進まない復興の問題点を明確にしています。それは、復興支援に関わる無数の人々の思いを代弁したものでもあり、今回の羽生選手の決意は、支援を続ける彼らに大いなる勇気を与えたことは言を待ちません。そしてそれは、羽生選手が被災された方々のみならず、支援をしている人たちにも光を与える役割を担ってしまったことを意味します。

但し、このことで羽生選手が一人で重荷を背負ってしまうことは絶対にあってはなりません。支援を続ける或いはこれから支援を始めるすべての人たちが一緒に「支援の継続」という荷を抱えていくことが何よりも大切です。

何はともあれ羽生選手は金メダルを獲得した快挙と同時に他に比類なき思いやりを全世界に伝えたと言えるのではないでしょうか。そして、このすべての人を巻き込んでいく思考こそが震災復興支援の一つの真理だと思うのです。

こうしたヒーローを育むところにもオリンピックのすごさがあるのではないでしょうか。

平成26年2月19日
公益社団法人 東日本大震災雇用・教育・健康支援機構
理事長 田中潤