被災地での支援活動の中で強く感じたのは、現地の方々の雇用に対する意識の複雑さです。本機構が運営するコミュニティーハウスどんりゅう庵・焼き立てパンのモーモーハウスでは、10名ほどの地元の方々を雇用しております。特に、モーモーハウスは将来的にはパン屋さんでの独立起業を目標にしています。

仕事の場をどうやって増やしていくかが本機構の活動の最大のテーマでもあるわけですが、現地の就業状況は予想外のことがありました。

それは震災で多くの雇用の場が失われたにもかかわらず、新たな求人への応募は非常に少ない、ということです。モーモーハウスでも常時募集をしているものの、中々働き手は見つからず、人手不足が続いています。それでは、雇用の場がしっかり確保されているのかというと、多くの失業者が同時に存在していることも否定できません。

何故このようなミスマッチが震災後3年近く過ぎた今でも続いているのか不思議なことですが、現地の方々の意識を考えた時、一つの理由が浮かび上ります。それは、永続的な雇用の受皿となるような将来性のある大きな事業所がほとんどない、ということです。

復興というテーマに向けて、新しい企業が被災の地へ進出する事例が起きていないのです。支援活動にはいつか終わりがあります。何故なら、その活動は利益追求を目的にしていないからです。本当に被災地を復興させるのは、自社が利益を上げることを目的にして、そこに進出した事業者に他なりません。そして、その企業の覚悟を感じ取った人々は、大いなる安心を求めてそこへの就職を希望することでしょう。この構図こそ、地元の人々が将来を思い描いて、被災の地で生きていく具体的な形だと思います。

震災後、浸水地域での土地のかさ上げや都市計画がなかなか進まず、新たな街づくりが遅れていることは、今振り返ると痛恨の極みと言わざるを得ません。その間、多くの方々が新たな土地へと引っ越して行き、また、仮設住宅の人々からは、もうこのままでいい、という声が増えています。

数年後に街づくりが進んでも、復興どころか以前の街並みなど思いもよらない寂しく人気のない街が出来上がることは予想に難しくありません。多額のローンを抱えて住宅の新築に取り組む人がどれだけいるでしょうか。高齢な人たちが再び店を開く気力が起きるでしょうか。今も時間との闘いは続いているのです。こうした中で今優先すべきこととして、目前の無駄を承知で行政主導の街づくりが出来ないかを考えています。

大手ゼネコンの協力を得て町の中心地であった浸水地域に住宅街をつくり、住民が安価で住めるような街づくりを完遂するのです。土地所有者の権利をある程度制限することも必要でしょう。有力な事業者を誘致するため、格別な優遇を与えることも大切です。そして、場合によっては10年ですべて建て替えても良い覚悟で、取り敢えず住宅や店舗をつくってしまうのです。津波からの避難の形をしっかり見極め整備したうえで、まずは今すぐみんなが楽しく住み、働き続ける場をつくることこそ、人々に元気を取り戻させる大きな道になるはずです。そして、その過程の中で雇用は確実に育っていくはずです。雇用の安定なくして被災地の復興はありません。

平成26年1月25日
公益社団法人 東日本大震災雇用・教育・健康支援機構
理事長 田中潤