平成26年11月8日フィギュアスケート、グランプリシリーズの中国大会で羽生結弦選手が新たなインパクトを私達にもたらしました。フリーの直前練習で中国選手と激突し、氷上でしばし動けず体が震える、という姿がライブ放送で伝えられました。

病院搬送も止むなしとも思われるような状況でしたが、一度治療をした後、頭に包帯を巻いて再び氷上に現れました。感動というよりも「倒れないで」との思いで、その動きを追うばかりでした。フリーの演技では、誰もが最後まで無事でいることだけを祈って見守るという異様な時間の中、何度も転びながらも滑り切ったのです。

結果は優勝者にわずかに及ばず2位でしたが、彼の発した「気」はオリンピックの優勝にも劣らない迫力がありました。その中で改めて感じたのは、フィギュアスケートの孤独です。怪我をして出場するかどうかも、他のスポーツのように監督やチームが決めるわけでもなく、自ら決断したようです。それは氷上で、ただ一人で滑り切らなければならない宿命と同質のものなのでしょうか。

強行出場した羽生選手の決断には様々な意見があるかもしれません。しかし、羽生選手の示した選択には、単なる良し悪しでは測ることのできない何かを感じました。そして、震災支援に対する思いを語ったオリンピックでのインタビューが思い出されました。「金メダリストになれたからこそ出来ることがあると思う」という覚悟です。彼の「気」は、全く進まない東日本大震災の復興に対する人々の孤独な戦いを気遣う思いの結晶に他ならない気がします。彼が発信する思いが、また必ずや震災復興の大きな力になっていくと思います。

羽生結弦選手、ありがとう。ただ、くれぐれも体は大切にしてください。

平成26年11月10日
公益社団法人 東日本大震災雇用・教育・健康支援機構
理事長 田中潤