【仮設住宅の存在】

東日本大震災から5年が経過しようとしています。復興がどこまで進んだかという判断はそれぞれの人で大きく分かれるところですが、大きな問題点であることがはっきりと明らかになっていることがあります。それは仮設住宅の存在です。

阪神大震災の時は5年後には仮設住宅は無くなったと言われていますが、現在東北では、未だ数万戸の仮設住宅に暮らす方々がいます。多くの人々が自分の家で心穏やかに生活するという最も基本的な権利を失ったままであり、住環境という点を鑑みれば復興は全く進んでいないと言わざるをえません。

実は、震災1〜2年目よりも深刻な問題も生じています。それは仮設住宅に住んでいる方たちの孤立化です。この5年の間に多くの方々が被災地を離れて行きました。また、復興住宅の建設や自力で自宅を再建し、移転して行かれた方々も沢山います。その結果、今仮設住宅には空き家が急増しています。

新たな住居を設けることが出来たことはもちろん良いことであり、すべての方々がその形にならなければいけません。しかし、今現在、新しい住まいに移ることが困難な方が決して少なくない、という現実があるのです。こうした方々にはそれぞれの事情があり、結果的にいつ全員の仮設住宅からの脱出が可能になるのか不透明な状況です。

【5年間の重み】

そして、様々な問題が積み上がっています。元々、耐用年数が2年程度である仮設住宅の老朽化は喫緊の課題です。居住者が少なくなったことにより、定期的に巡回してきた食料品や雑貨など生活必需品を扱う移動販売車が減少したのも、それぞれの業者が営利事業であるという事情を考えれば当然です。居住者を見守る行政やボランティアの体制も資金不足などの影響で減少してきています。何よりも5年という歳月を重ねたことによる居住者の高齢化は、人々の日々の営みの中で、心身両面から重荷を増しています。

【コミュニケーション支援】

私たちはこれからの最重要活動の一つとして、孤立化する恐れのある被災された方々とのコミュニケーションに力を注いでいきたいと思います。具体的には、まず大槌町にて、高齢で1人住まいの方々に定期的なコミュニケーションコールを始めます。同じ担当者が定期的に電話でご連絡をして5分程度お話をします。健康確認や何か要望がないかの聞き取り、町内の行事の情報提供など日常のあれこれをやりとりします。要望に応じて、弊機構の大槌町コミュニティーハウスどんりゅう庵からスタッフが出動するという体制も整えて参ります。また、どんりゅう庵で定期的に行なう無料のカレーパーティーやお茶会などの行事に送迎して楽しんでもらうことを考えています。一つの見守りサービスとも言えますが、もう少し踏み込んで仮設住宅の皆様が自分から積極的に発信をして、活動出来るような形を考えていきたいと思っています。

【継続の覚悟】

私たちは行政からの助成は一切受けておらず、自主財源にて事業を進めております。当然、活動予算は限られますが、その一方で、誰かの指示や拘束を受けることなく、今必要を感じた支援活動を速やかに行なうことが出来ます。運営スタッフも機構と経済的雇用関係は無く、ボランティア形式で参加するという特異な運営です。行政組織の如く権威を振りかざしたり、予算に縛られ密室化している多くの公益法人の在り方とは一線を画した運営を心掛けています。

こんな私たちが行なう復興への取り組みは、蟻の一歩に過ぎません。しかし、明日を信じて絶対に途切れることなく活動を継続していくことを心に刻み、被災地の復興に向き合っていく所存です。

平成28年2月1日
公益社団法人 東日本大震災雇用・教育・健康支援機構
理事長 田中潤