企業は社会貢献をするべきである、という考え方は当たり前のこととされているが、現実には利益追求をすることで利害関係者の欲求を満たすことが最優先である以上、無駄なことにお金を使うことは出来ない、と考えている経営者は多い。課税庁も同じ考え方から抜け出せず、広告宣伝費という名目では巨額な垂れ流し経費の損金性を認める一方で、公益活動を行なうために使われる寄付金は基本的に損金として認めていない。つまり、寄付をすることを事業としては認めていないのである。

巨額な内部留保利益を有する日本の大企業の思い切ったお金の使い方、すなわち、投資においてはこの概念を打ち破ることが非常に重要である。ただ寄付をしましょう、ということではない。公益活動にお金を使うことを、事業と結びつけて考えていきましょう、ということである。これは利益最優先でなく、リスクは高くても公益性のある事業には、赤字覚悟で積極的に投資をしていくことを意味する。そして、事業なのだから当然使われたお金は損金として、収益から控除出来る。こうした形での事業を、これからの被災地の復興のために行なって欲しいのである。

その多くが過疎の町である被災地への投資は、事業としての採算性は乏しい。しかし、大きな企業が一定の予算を設けて事業参加すれば、それだけで地元に大いなる元気を生む。そして、事業が軌道に乗れば、地域が活性化するだけでなく、投資した企業も一定の利益を獲得する可能性がある。仮に、具体的な数字上の利益は上げられなくても社内意識の向上をもたらすと共に、公益事業を行なっていることで社会貢献を成し遂げられる。下らないテレビ番組のスポンサーになってお金を浪費するより、よほど有益な広告宣伝にもなるのではなかろうか。

海外ではソーシャルインパクトという概念が普及してきているようだ。投資家たちの間で資金の運用先として、公益事業への投資が活発化しているのである。税金対策とは別の次元で、こうした事業への参加が進んでいるのは注目すべき点である。日本の企業の場合、こうした投資は損金性に繋がることで所得の合理的な活用という面でも大きなメリットがある。多額の利益を計上している企業は、是非、この取り組みに参加し、被災地に元気を与えて欲しいのである。

平成28年7月20日
公益社団法人 東日本大震災雇用・教育・健康支援機構
理事長 田中潤